今日の一曲 No.53:サラサーテ作曲「カルメン幻想曲 作品25」(五嶋 龍(ヴァイオリン)より)

「今日の一曲」の第53回目。

このシリーズ、時系列に沿うことは滅多にない・・・。でも、今回は、前回の第52回目の続編という感じに・・・。

 

まずは、今回ご紹介する曲と盤だよね。

 

ヴァイオリンの超絶技法の色々を楽しむには、お薦めのCDだよ!

ヴァイオリニスト五嶋龍が17歳の頃に演奏した10作品、これらを収録して、2005年8月に発売となったCDだ(上の写真)。

中でも、今回、取り上げてご紹介したいのは・・・、

パブロ・デ・サラサーテ作曲、「カルメン幻想曲 作品25」。

 

当時、このCDについては、宣伝にノセられた感じも否めなくもないのだけれど、発売前から興味があって早々と購入を決めていた。

 

が、これまで何度も登場してきた例の実家近くにあったレコード店、そう、私の小学生時代から社会人になるまでを眺めてくれていた・・・物静かそうなオジさんが一人で営んでいたレコード店は、この4年前だったか5年前には店を閉じていた。

だから、とあるチェーン店のCDショップに買いに行った。

 

話は、一旦、さらに時代を遡るけれど・・・、

 

1990年代に入ると、ほぼ、CDの時代に。

レコード店に気まぐれに立ち寄っては、アナログ・レコード盤が納められたラックに手を伸ばし、指先で軽くつまみ上げては瞬時に表紙のジャケットを眺めて直ぐさま元に戻す、その安全かつ素早い動作を繰り返してお目当てのレコード盤を探し出す・・・そんなことも出来なくなった。やがて、私を見守ってくれていたその近所のレコード店も姿を消した。

一方、30歳代そこそこにして、転職した先でも経験と実績が認められたのか重責を任される立場に。35歳を過ぎると、ますます「仕事人間」としてのみに磨きが掛かり、職場では「飛ぶ鳥落とす勢い」の如く・・・。

 

現在(いま)から振り返ると・・、アン・バランスな感じが垣間見える。

2000年を過ぎてからは、「今日の一曲」の第39回目(2017/06/20)や 前回の第52回目(2017/10/11)に書いたような状況が待ち構えていた。

 

話を戻そうね。

 

2005年の夏、復職して1年半が経過していた。

通院しながら、薬の服用は絶対だった。

職場では重責の任も解かれて少し気が楽になるかと思えたのだが、新しい事業が動きはじめたばかりのところで私が休職した為に、急に後を任された新しい担当責任者も実際には不慣れであったり、入社1~3年目の若手が右往左往している場面も。そのフォローに目をつむれず、会社がせっかく退勤定時の帰宅を約束してくれたのに、そうもいかない日がちょくちょく・・・。

 

「愚かだとお思いになりませんか・・・?」と、当時の自分に言ってやりたくなる(汗・苦笑)!

 

が、自宅に帰って、家族の顔を眺めて、声を聞いて、夕食後には落ち着いた時間くらいは確保していた?・・・つもり。

そんなひと時、好んで度々聴くようになったのが、今回ご紹介のCDというわけだ。

 

17歳が奏でるエネルギッシュで活き活きとした音色に、ヴァイオリンの超絶技巧の確かさまでが加えられて伝わってくる振動は、希望に満ちて聴こえるのだった。

CDの最後に収録されている楽曲、サラサーテ作曲の「カルメン幻想曲 作品25」は中でも特別に聴こえた。

 

「カルメン」というと、歌劇「カルメン」で音楽を担当したフランスの作曲家ビゼーのが先ずは元祖かと。

ビゼーの歌劇「カルメン」がもとになって、「カルメン組曲」やバレエためのカルメンなど、様々な人たちによってアレンジを加えたものや発展して新たな形となって世に送り出された作品も数々。フィギュアスケート競技のために選曲・アレンジされたり・・・、日本では70年代後半から80年代のアイドルブーム絶頂期に出現した「ピンクレディー」の振付けと伴に歌う大衆音楽にもなって・・・、ん?、飛躍しすぎたか・・・(笑)。

 

で、「カルメン幻想曲 作品25」も・・・、

ビゼーが作曲したものをモチーフに、スペインを代表するヴァイオリニストでもあったパブロフ・デ・サラサーテがヴァイオリンの超絶技巧とスペイン風な音をたっぷり詰め込んで作曲したと云われる曲だ。

 

先にも記した17歳の若き才能溢れる五嶋龍のヴァイオリン演奏と、サラサーテが伝承しようとした超絶技巧とスペイン音楽との融合への並々ならぬ情熱が、更にここに相まって、ほとばしる輝きを放ちながら、それは我が身を支えてくれる・・・・そんな力強さを感じさせてくれた。

そう、夜、ほんの少しの間、明日を安心していたいという思いに応えてくれていたのだった。

 

少しして、CDの音が止むと、錠剤と少量の飲料水をふくみながら喉奥へと流し込む。あとは、この身体は横に倒すしかなくなる。

隣の部屋では、実は私より先に原因不明の病を抱えていた妻に、長女と長男が話掛けて、どうやら3人で他愛もない話を繰り広げながらも、はしゃいでいる声がしていた。

・・・

「守ってあげなければ・・・」

・・・・

と、胸裏で呟くうちにも瞼は閉じられる・・・。

 

当時、「カルメン幻想曲 作品25」から注がれるエネルギーが、この危うさを含む日々にあって、どんなにか支えになっていたことだろうう・・・。

 (この約1年後、二度目のリタイヤを経験する。)